老後のおカネ

公的年金から、借金問題まで。

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老後の不安がわかっていない。・佐藤治彦『普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』扶桑社を読む

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老後の不安がわかっていない

佐藤治彦『普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』扶桑社

とある知り合いが、オススメだというので読んでみました。なんとか読み終わりましたので、忘れないうちに(笑)レビューを書いておきます。

この本、よく売れているみたいです。定点観測している「アマゾンベスト100」にも、長い間、登場しています。

売れているワケは、タイトルにある「普通の人」を「年収300万~700万円」と明確に定義付けしているからなんでしょう。最も人数ボリュームが大きいゾーンですから、多くの人が「自分のことだ」と反応する可能性があります。というか、現に反応しているから売れているワケであって(笑)。「老後」「安心」というキーワードを入れ込んだタイトルも上手い。

で、内容なんですが、

この本は冒頭で、いきなり「老後資金に、・・・万円必要だ」という考え方を否定してみせます。よく、FPさんなんかが雑誌の特集やテレビの家計診断コーナーでいろんな数値を試算して、読者や視聴者に対して、半ば脅迫とも取られかねないような勢いでプレゼンするお馴染みのアレ(笑)。不安を煽り、恐怖心を植え付けることで、「老後の不安」の喚起・育成に大いに貢献されておられる、お馴染みの(笑)。

誰もが苦々しく思っている問題について、おカネのプロである著者に、「そんなものは、気にせんでイイ」なんて言ってもらえば、「ですよね」「そうだ、そうだ」「いや、実は私もそう思ってたんですよ」と、喝采したくなるのも当然の話。

この点、私も大いに賛成します。当サイトにも、過去、こんな記事をアップしているのですから。

老後のために、お金はいくら準備すれば良いのでしょうか?

冒頭にサビを持って来て、読者にインパクトを与え、結果、本が売れるというのは結構な話なんでしょうけど、私が賛同出来るのはココまで(笑)。

まずもって、著者は、「では、どうすれば良いのよ?」という問に答えていないし、老後不安のメカニズムを解明出来ていない。

老後不安の正体とは?

残念ながら、サラリーマン・勤め人には、「定年」という制度を避けることが出来ません。ここから先の家計収支の構造は、基本的に「収入」が公的年金プラス人によっては企業年金。「支出」は、定年前と同じ。収入と支出に差額があれば、これまでの「蓄え」でカバーすることになります。

ここに、公的年金は破綻することなく、年を経るごとに支出全体を賄うことが出来る確率は下がっていく。老後家計の支出に占める割合の高い医療費・介護費がアップしていくのは確実。さらに、「老後」という時間が、一体いつまで継続するものか予測出来ない。漠然と、その時間が長くなっていきそうな予感はする。

という条件が加われば、少々の蓄えがあっても、不安を感じるのは当然で、むしろ感じない方がどうかしている(笑)。

絶対に老後に不安を感じることのない、貯蓄額とは?

ここで特別に、これだけあれば老後に不安を感じることはない、絶対安心の貯蓄額を算出する公式を特別に、ご指南しておきます。その公式とは、

(いくら何でも、そこまでは使わないだろうという年間支出) X (いくら何でも、そこまで長く生きていないだろうという年齢-定年の年齢)

この公式から導き出される蓄えがあれば、まず老後に不安を抱えることはありません。というか、不安になりようがない(笑)。

しかし、残念ながら、こんなに貯めこむことは出来ない(笑)。ましてや、給与所得が前提なら、なおさらのこと。

つまり、老後を蓄えでなんとかしようという発想自体が、間違っている。あるいは、「間違い」になりつつある、と言えます。ほんの、一昔前なら通用したんですが。

では、老後不安を克服するにはどうすれば良いんでしょうか?

この問に対して、用意できる答えのバリュエーションはそんなに多くなくて、「老後も引き続き安定収入があること」以外、少なくとも私には思いつかないです。

安定収入を確保するには、人に雇ってもらうか、自分で自分を雇うか(つまり、自営)の二つしか選択肢はありません。いや、株や不動産への投資もあるじゃないかとの意見も。この選択肢については、「上手くいかなかったら、どうするのよ?」ということで、著者も明確に否定しています。

「一億総活躍社会」と老後の不安

私の指摘を待つまでもなく(笑)、政府はそんなこと十分承知しており、最近言われるようになった、「一億総活躍社会」というコトバの正しい意味は、ジジイもババアも死ぬまで働け!ということだと、知り合いに教えてもらったんですが、妙に納得したものです(笑)。

もちろん、ジイさん・バアさんになって、「雇ってもらえるのか」という疑問の声が上がりそうですが、日本はこれから空前の「人手不足社会」になりますので、以前よりはチャンスは多いはずです。政府がトチ狂って、「移民政策」なんぞをやらかさない限りにおいては。ただ、「体力勝負の仕事」は避けたいものです(笑)。明らかに「お婆さん」としか表現できない人が、マクドナルドで注文を聞いたりしているものの(笑)。

とはいえ、理想的には「自分で自分を雇う=自営」が望ましい。ここで気をつけたいのは、定年起業であるとか、会社(または法人)をつくるとか、人を雇うとかいった大袈裟な(?)ことは考えんでも良いということです。

残念ながら(笑)、公的年金が支給されなくなる日は来ません。基礎年金の半分はすでに、税金で賄われていますので、ハタンさせようがないのです。この点は、著者も指摘するところです。

もちろん、公的年金だけで生活が成り立っていたのは過去の話となりますが、年金支給は続きます。つまり、あなたが稼ぐべき必要額は、毎月の出費と「先細った年金」の差額だけで良いんです。

老後の貯蓄は、不安心理の裏返し

著者が注目するデータに関連して、こんなくだりがあります。

総務省の発表した家計調査(平成23年)によると、世帯主が65歳以上の家庭では平均で2257万円の貯蓄があるそうです。そのうち16%の家庭では4000万円以上の貯蓄があると報告されています。

大したゼイタクをすることもなく、こんなに貯めちゃって、あの世に持って行けるワケでもなく、バカですね。というのが、著者の総括。ただ、このとき、著者はひとつのパターンに属する人たちのことしかイメージ出来ていないようです。もちろん、属性としては元勤め人。

節約・節約で、不覚にも(笑)結構なおカネを残す人がいる一方で、有り金を目一杯使ってしまい、何も残さない、という人もいます。

後者に属するのが、自営など自分で商売をやっている人や安定的な家賃収入の見込める大家さんなど。

私は具体的な人物をイメージして、お話しているのですが、税理士さんなんかに聞いてみても、おんなじ事を指摘します。

つまり、自分で稼げる人は、「貯金なんかなくても、何とかなる」というマインドが維持出来ている、ということです。

一方、自分で稼いだことのない「元勤め人」が用意できる老後不安への対抗措置は、「貯蓄」以外にはなく、仮に少々の蓄えがあったとしても、決して「安心」は出来ていないに違いありません。

「思考は現実化する」といった言い方(というか、本のタイトル)がありますが、不安心理を体現したのが、「過剰なまでの貯蓄残高」ということ。

老後不安は、構造的な問題。「老後」は、クマの冬眠じゃないんだから(笑)。

クマが、適量の食物(蓄え)を抱えて冬眠できるのは、やがて春が来ることが分かっているからです。多少の誤差はあっても、また原野に出て、好きなだけエサを確保出来る日が戻ってくる。

老後が、いつ終わるかについて、あらかじめ予測することは出来ません。蓄えだけで(プラス公的年金、人によってはさらに企業年金)、この期間を何とかやり過ごそうというのは、いつ終わるかが定かでないクマの冬眠と同じこと。確保したエサは手元にあるだけなのに、春の来る日は分からないんじゃ、安心して冬眠しているわけにはいきません。いつ、エサが尽きてしまうか心配でなりません。

老後は、眠ったままじっとしていなければならない「冬期」じゃないんだから、勝手にエサを獲りに行っても(自分で稼いでも)、どこからも文句をつけられることはないのです。ただ、自分自身に「エサを獲る=稼ぐ」スキルがあるかどうかが問われるだけ。

ただ、定年を迎えるような年齢になってから、「これからは、自分で稼ぐぞ!」と意気込んでみても、なかなか難しい。もっと、若い頃からトレーニングを積んでおかないと。

と、考えてくると、勤め人にとって、「副業」というのが結構重要だということがわかります。大きなリスクを取ることなく、「稼ぐ力」を鍛えておける。今どき、「副業禁止」などと言っている会社があるとは思えませんが、あればこちらから距離を取るようにしないと。念の為、就業規則はカクニンしておきたいところです。もちろん、会社のノウハウやコネクションを使っての「ひと儲け」というのは許されません。

また、公務員は副業が全面的に禁止です。オモテの仕事と副業に関連性があれば、犯罪になりかねませんから。

はなちゃん14-1

これも、老後不安をつくるひとつ・間違った年金制度未来予想図

著者は年金制度の未来について、このように考えています。

私も少子高齢化社会の日本を考えると「いまのまま」の年金制度がこのまま続くとは思いません。

こういった言い方から、ある日、突然に年金制度が大改革される「革命の日」のようなものがやって来るに違いないと、著者が考えているのがわかります。また、「私も」というからには、それが常識・コンセンサスになっているじないかという思い込み(?)もあるようです。

しかし、こんな「わかりやすい変化」、誰にでも気づく・わかる「革命の日」が、年金制度に訪れることはありません。

誰でも気づくのであれば、マスコミは大騒ぎするし、ジイさん・バアさんは、朝から各地の年金事務所前で大行列をつくることになります。もちろん、「わかりやすい大改革・大変化」に至ったことについて、制度を運営する厚生労働省や年金機構のお役人は、責任を取らされることになります。

こういうのは、役人が最も嫌うパターンです。例の「年金記録問題」で、日本中、大騒ぎとなった同じ過ちを繰り返すとは思えません。

では、どんな手法で制度を「変化」させていくかと言えば、一般の人がほとんど気が付かない方法で、少しずつ・少しずつ。この「やり口」は、すでに実施されていて、具体例を上げると、年金の支給開始年齢の「60歳から65歳への繰り下げ」。20年超の時間をかける構想で、2016年現在、作業は進行中です。それに、マクロ経済スライド。こちらは、年金の給付水準を同じく20年超かけて引き下げようというもの。ただし、こちらは「支給額面金額」を下げないことで、より気づかれないようにと画策したものの、インフレ経済を前提とした政策で、今まで実施されたのは、ただの1度だけ(笑)。マクロ経済スライドについては、下記記事をご参照ください。

年金のマクロ経済スライドをわかりやすく説明してください(1)

年金のマクロ経済スライドをわかりやすく説明してください(2)

このような「気づかれにくい」「少しずつ変えていく」作戦(笑)によって、そのもたらす効果はといえば、被保険者が損得についてわかりにくくなること。年金制度の収支を検討するには、長い期間にわたっての膨大な記録を参照する必要があります。給与明細のすべてを保存している人など、まず居ません。年金事務所で、データを引っぱり出してもらって、面倒な計算をくりかえして、やっと、「支払った保険料さえ、年金として給付されていないじゃかいか」とか気が付く。しかも、気付いたのが平均寿命の年齢近くなってから、ということであれば、諦めるよりテはない(笑)。

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